五月晴れが気持ちよい2023年5月30日、秋田の林業を担う若き社長おふたりからお話を伺いました。JR秋田駅から車で約10分の場所にある「フォレストリー穂林(すいりん)」さんの事務所に集合。仕事帰りだったにもかかわらず、快く受け答えしてもらいました。
このインタビューでは「社長となるような人の林業を始めたきっかけ」や「林業ではどんな人が求められているか」がリアルに語られています。おふたりの思いに触れて、少しでも林業へ踏み出すきっかけができれば嬉しいです。ぜひ最後までご覧ください。
左:フォレストリー穂林代表取締役社長「土田知礼さん」
右写真の左側:MasterTree代表「鈴木直也さん」
林業を始めたきっかけ
ーーおふたりは現在、林業県秋田で林業の会社を経営されています。まずは林業を始めたきっかけを教えてもらえますか?
土田 知礼さん(以下、土田):はい。始めた当時は※京都議定書などが騒がれていて、林業への感心が強い時代でした。16歳から土木の道で仕事をしていましたが、当時の仕事に閉塞感を抱いていた時期でもあります。
※京都議定書は温室効果ガス排出の削減目的として定められ、1997年に京都で採択された
そんなときたまたま林業の会社の募集があって、応募したら受かってしまった。その時の会社の専務さんは「車の運転免許もないやつなんかいらないだろ」って話しをしたらしいです。でも社長さんとその奥さんが「社員のところまで自転車で行って、会社まで乗せてもらえるようにするから頑張りな」と。私の何を買ってくれたのかは今ではわかりませんが。
そうして入った林業の会社でスキルを磨き、頑張ったら頑張った分だけ自分に跳ね返ってくる林業に惹かれていきました。10数年続けてスキルも身に付いて、仕事をいただけそうな元請さんとの関係も築けた。その段階で独立して、今に至る感じです。
ーー京都議定書が採択されたころは、確かに環境問題が取り上げられていた時期でしたね。その流れに乗って始めた林業。そこからスキルを磨いて独立に繋がっていったのですね。
土田:そうですね。当時は「※緑の雇用制度」に乗っかって、資格取得も手厚く始められましたしね。
※緑の雇用制度は林業への新規就業者の支援を目的とした制度
ーーありがとうございます。鈴木さんも林業を始めたきっかけを教えていただけますか?
鈴木 直也さん(以下、鈴木):私自身、ずっと子どもの時から外で遊ぶのが好きだったんです。仕事としてたまたま山の仕事を身に付けていきました。山の仕事もするし、街中で造園の仕事もやるっていう。特殊な伐採を請けることもあります。なのできっかけというのはないですね。楽しいがそのまま仕事になっています。
ーーそれって一番いい仕事の始め方ですよね。楽しいから続けられますし。
鈴木:自分の中では楽しいから仕事を覚える、というのが仕事をするうえでの原動力になりました。
ーー楽しいことは追求できますよね。
鈴木:そうですね。前職も山に行ってはいました。でも新しい仕事をする前には、周りにプレゼンをしたりハンコをもらったりしなければいけなくて、始めるまでに時間がかかってたんです。自分でやった方が早いなって思って独立しました。
ーー鈴木さんはそのまま自分でやった方が早いし、何より好きで楽しいから林業を独立の道として選んだんですね。土田さんはどちらかというと、やりながら好きになっていった感じですか?もともと林業が好きで始めたわけではないけど、やってみたら面白かった。
土田:そうですね。林業の道に入ろうと思ったのは、「山が好きだ」っていうのがありました。入ってからは知ることが多くて、「林業って面白いな」「山仕事面白いな」って自然となっていきましたね。
求める人物像
ーー始めたきっかけから独立のところもお話していただきありがとうございます。おふたりは現在会社を経営されていて、当然従業員さんも雇用されている立場です。これから入ってくる人たちに求める人物像というのはありますか?
土田:突き詰めたら細かいことはいろいろありますが、やっぱり「山が好き」な人がいいですね。あとは「会社に尽くせる人」。
自分は前職で拾ってもらったという思いが強くて。仕事がスムーズに回るんだったら残業になってもそれでいい。そんな思いで仕事をしてました。だから、そんな人を自分も求めています。
例えば新しい林業機械が入ってきて、最初は誰しも乗り慣れないですよね。そんなとき、休憩時間とかを使って練習して、少しでも生産性が落ちないようにしたりとかね。黙ってそんなことを考えてやってくれる人がいい。
そうやって仕事をしてきた結果、前職の会社の成長スピードが早くて。自分はにその記憶があるんです。今は林業のほとんどが機械で作業しますが、入社時はトビを使って木材を出していましたから。
ーートビは手工具の一種ですが、機械化が進む現在ではなかなか考えられないですね。
土田:自分の貢献と言ったらおこがましいですけど、機械化の時代とうまく噛み合って木材生産力は10倍以上になりましたね。自分の会社もそうやって成長させていきたい。
ーー求めているのは、いわば片腕的存在なのかもしれませんね。
土田:そうですね。
ーー鈴木さんはこんな人に入社してもらいたいな、というのはありますか?
鈴木:自然相手に仕事をすることに抵抗がない人ですね。仕事の役割はいろいろとあるので、片付けだけとかでもいいんです。木の上に登る人は技術を突き詰めてもらえたらいい。
あとは「嘘をつかない人」ですね。
ーーなるほど。
鈴木:面接のときに「きっとこの人なら楽しく仕事ができるんだろうな」と感じられたらそれがいいですね。
使用期間があるので、そこでお互いにすり合わせできればと思っています。林業って当たり前ですけど、外仕事じゃないですか。体を動かしてみないとわからないですよ、本当のところは。
ーーフォレストリー穂林さんでも使用期間はあるんですか?
土田:ありますよ。3カ月間ですね。ただ、正直3カ月ではなかなかわからないですよね。凄い子がいたんですよ。ここまで成長するか!っていう前例があるんです。
機械は全然操作できない、木を倒すのもへたくそ、後輩には抜かれていく。「この子はきっと続かないだろうな」と思っていたんです。1年ぐらいはそんな調子で。
でも2年3年と経ったらめちゃくちゃできるようになった。タフだし、伐倒(木を倒す作業)とかを見てたら、もう自分よりも全然うまい(笑)
ーー前例を見てきてるんですね。
土田:今のは前職の人ですけど、今の会社でも成長した子がいます。1年くらいしたらチェーンソーもバンバン扱えて、機械も乗せたらどんどん覚えちゃって。今はもう山での道づくりまでやってますね。だから3カ月で判断するのは厳しい。
鈴木:うん。続けてもらうかどうかを判断するのは厳しいと思います。
土田:ただ、人柄は見れる。
ーーそうなると3カ月っていうのは人柄を見る期間なのかもしれませんね。求める人物像をまとめると土田さんは自分から主体的に動ける人。鈴木さんのところでは正直に働いてくれる人。あとはお互いが求めているのは、山や自然が好きな人。
土田・鈴木:それは絶対必要!
鈴木:人柄の話しですが、結構伐採の仕事って気を遣ってもらったり、気を遣ったりなんです。そうでないとすぐに大怪我しちゃいますから。
何かささいなことでも、気付いたときに「これって大丈夫ですか?」って言ってくれる人は信頼できますね。
独立起業していく人をどう思う
ーー今はおふたりとも会社を経営されています。会社の中に独立を考えている人がいるとします。やめられるのは会社としては痛手だと思うのですが、独立するのは歓迎できるものですか?例えば仕事ができる人は、戦力としてありがたい半面、独立を考えていることもあるのではないかなと。
土田:筋が通っていたらいいと思いますよ。基本はやりたければやったらいいです。
ーー筋が通っていたら、貴重な戦力でも喜んで送り出せるということですか?
土田:自分がそうだったんですよね。実は前の職場にいたとき「独立したい」と社長に言ったのは、4回くらいあって、3回は止められました。1回目のときは下の社員が育っていなかったんです。そこまで気が回っていなかった。
ーー社長は、土田さんが今辞めたら会社が大変だということに気付いていた。
土田:そうですね。当時私は2つの現場を統括する立場で、さらには機械の管理も全部自分でやっていました。そのような状況から、自分がいなくなっても大丈夫なように後輩を育てていきました。2、3年かかりましたね。そこで改めて「自分でやっていきたい」って社長に言いましたね。
最後辞めるときはは送別会も開いてもらって。だから筋さえ通ってればいいのかなと思いますね。
ーー鈴木さんは独立したい社員に対してはどのようにお考えですか?
鈴木:この子はいいなと思えたら、心から応援できますね。あと、仕事ができないで独立する子もいるんですけど、そのときは仕事の紹介、つまり応援はできないですね。仕事ができてる子だったら、独立後の面倒も見ると思いますけど。
ーー紹介した鈴木さんの立場がありますからね。
そういうことです。仕事ができないと紹介はしない。やっぱり仕事のできが土台にはあります。でも、仕事ができるだけでもだめで、例えば自分勝手な人は厳しいですね。人付き合いで仕事も繋がっていくので。
記事を読んでくれた人に一言
ーー林業に興味を持って記事を読んでくれた読者の方へ、一言メッセージをお願いします。
鈴木:林業は、四季を楽しんだり五感を刺激するものがあったりする仕事。だから、自然が好きで体を動かすことが好きであれば、ぜひ一度体験してみる。林業の世界に足を踏み入れて、経験してみるのがいいんじゃないかと思います。
ーー興味を持っているのであれば、あとは行動あるのみですね。
鈴木:そうですね。
土田:体力に自信がある人は向いていると思うんですけど、体力に自信がない方でも大丈夫です。40歳を過ぎてから林業を始めた人がいますけど、元気に動いてますよ。やっぱり体は慣れます。そう考えると、この世界に入るっていったら、「好きかどうか」かな。
ーーそこが林業の世界に入るうえで一番大切。
土田:そうですね。体を動かすのが嫌いだったらやらない方がいいとは思いますけど。
鈴木:危険な仕事ですからね。嫌いな感じで仕事をされると、周りにも伝わってしまうので。やっぱり自然が好き、山が好き、体を動かすのが好き。ぜひ、こういう人に体験してもらいたいですね。
土田:楽しみ方は人それぞれですけどね。うちの社員さんでは、朴(ほう)の葉っぱを持って帰って、包み焼きをやってる人もいる。山菜なんかも採って自分で料理したりしてる。
ーー林業という仕事を楽しんでいるんでしょうね。
土田:そう、自分から楽しんでる。
ーー楽しみ方はいろいろありますからね。
土田:その人は、最初から山が好きだったかはわからないけど、林業をやったからには楽しんでる。
鈴木:興味を持ってるのなら、あとは踏み出してもらうだけじゃないですか。
ーーそうですね。電話でもメールでもまずは連絡をしてみるところからですね。興味があるなら、まずは行動力。おふた方、今日は貴重なお時間、本当にありがとうございました!
土田・鈴木
いえいえ、こちらこそありがとうございました。
インタビューを終えて
今回2人のお話を聞いて感じたのは、「好きは仕事の土台である」ということでした。追求すること、続けること、このふたつは好きであればこそなのだなと。逆に言えば、好きであればその仕事のスタートラインには立てているということ。
ぜひ自分の「好き」を探してみてください。「林業」「自然」「外仕事」「体を動かす」が好きであれば、林業の仕事に踏み込んでみてはいかがでしょうか。
インタビュアー・ライター:きょうわか
今回ご紹介の林業事業体の情報
【(株)フォレストリー穂林】
代表取締役 土田 知礼
TEL:090-6626-9662・018-811-1901
FAX:018-857-5137
メール:info@forestry-suirin.com
【MasterTree】
代表 鈴木 直也
TEL:080-3214-8117・018-866-2867
FAX:018-866-2867
メール:master.tree2023@gmail.com
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